桜(さくら)

晩春の季語 | HitchHaiku 歳時記

解説

桜は春を代表する季語であり、日本の詩歌がもっとも長く、もっとも深く付き合ってきた花である。和歌の時代には「花」といえばすなわち桜を指し、俳諧に受け継がれてからも、咲き満ちる白雲のような遠景、はらはらと散りゆく一片の近景、そのどちらもが句の主題となってきた。

桜のおもしろさは、満開の華やぎだけでなく、その前後の時間にある。咲くのを待つ心(花待つ)、咲き初めの一枝(初花・初桜)、盛りののちの潔い散りざま(落花・花吹雪)、そして花のあとに残る若葉(葉桜)。ひとつの木が、ひと月足らずのあいだに幾つもの季語を生む。人の一生や別れと重ねて詠まれることが多いのも、この移ろいの速さゆえである。

また「花衣」「花見」「花の宴」のように、桜をめぐる人間の営みそのものも季語となる。桜を詠むことは、花を見る人を詠むことでもある。

傍題・関連季語

名句選

HitchHaiku の古典俳句データベースから、桜とその周辺の季語を詠んだ句を選んだ。

さまざまの事おもひ出す桜かな

松尾芭蕉 | 季語:桜(春) | 故郷伊賀で旧主の庭の桜に対して詠んだと伝わる

散る梅は祗王櫻はほとけ哉

正岡子規 | 季語:桜(春) | 京都・祗王寺

一重づゝ一重つゝ散れ八重櫻

正岡子規 | 季語:八重桜(春) | 東京・九段坂

櫻から人にうつるや山の風

正岡子規 | 季語:桜(春) | 松山・道後温泉周辺

葉櫻の上野は闇となりにけり

正岡子規 | 季語:葉桜(夏) | 東京・上野

日当りて電燈ともり町桜

高浜虚子 | 季語:桜(春) | 東京・木挽町

遅桜なほもたづねて奥の宮

高浜虚子 | 季語:遅桜(春) | 京都・鞍馬寺奥の院

城壁にもたれて花見疲れかな

高浜虚子 | 季語:花見(春) | 前橋城

桜貝波にものいひ拾ひ居る

高浜虚子 | 季語:桜貝(春) | 千葉・九十九里浜

花衣ぬぐや まつはる 紐いろいろ

杉田久女 | 季語:花衣(春) | 小倉。「ホトトギス」巻頭を飾った代表句

あすはかへらうさくらちるちつてくる

種田山頭火 | 季語:桜散る(春) | 長野・飯田。自由律

いつとなくさくらが咲いて逢うてはわかれる

種田山頭火 | 季語:桜(春) | 讃岐まんのう。自由律

詠み方のヒント

桜はあまりに詠まれてきたため、「きれい」「美しい」と正面から言うと句が痩せる。むしろ桜のまわりにあるもの——風、電燈、城壁、脱いだ花衣の紐——に眼を移すと、桜は言わずして立ち上がる。上の名句の多くが、桜そのものより「桜のある場所の人間」を写していることに注目したい。

HitchHaiku では、吟行マップで桜の名所を歩きながら投句すると、詠んだ場所が句に記録される。散りぎわの一瞬を、その場で言葉にしてみてほしい。

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